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3. Nikon ZR:REDの魂を宿す挑戦者

ニコンとREDのシナジーによって生まれた「Z CINEMA」シリーズより、フルサイズセンサー搭載カメラ「ニコン ZR」を発売 | ニュース | Nikon 企業情報
3.1. デザインとコンセプト:ミニマルな軽量・高機能ボディ
ニコン ZRは、ニコンの新たなシネマカメラシリーズ「Z CINEMA」の第一弾として、極めて挑戦的なコンセプトを掲げています 。そのデザインは、グリップレスで薄型というユニークなもので、本体のみの質量は約540g、バッテリーとメディアカードを含めてもわずか630gと、競合機種と比較して圧倒的な軽さを実現しています 。この軽量・コンパクト設計は、究極の機動性を追求した結果であり、手持ちでのランアンドガン撮影やドローンへの搭載など、最小限のシステムで最大のパフォーマンスを発揮できるよう設計されています 。
ZRは、冷却ファン非搭載でありながら、高い放熱性能により長時間の撮影でも熱停止を抑制する設計が施されています 。これは、冷却ファンの騒音が致命的となる繊細な音声収録において、クリエイターが安心して撮影に臨めることを意味します。また、4.0型、約307万ドットの非常に大型かつ高密度なバリアングル液晶モニターを搭載しており、外部モニターなしでも快適なモニタリングを可能にします 。このデザインは、カメラを「ウェストレベル」で構える新しいホールディングスタイルを提唱しており、従来の静止画用カメラとは一線を画す、動画撮影に特化した操作性を実現しています 。

ニコンとREDのシナジーによって生まれた「Z CINEMA」シリーズより、フルサイズセンサー搭載カメラ「ニコン ZR」を発売 | ニュース | Nikon 企業情報
3.2. センサーと映像表現:REDのRAWコーデックがもたらす画質革命
ニコン ZRの核心は、RED社との技術統合による「REDの魂」にあります 。Z6IIIと同じ約2450万画素の部分積層型フルサイズセンサーを搭載し、その高速な読み出し性能により、ローリングシャッター歪みを最小限に抑えます 。
最も注目すべきは、REDの技術をベースとしたRAW動画収録コーデック「R3D NE」の搭載です 。これはREDの「R3D」コーデックに準ずるもので、6K 59.94p、4K 119.88pの12bit RAWでの内部収録を可能にします 。実際の映像は、暗部のノイズが非常に少なく、ノイズリダクションがほとんど不要なほどクリーンであると評価されており、その豊かな階調と色調は、デモザイク処理にREDのIPP2が使われていることによると推測されています 。これにより、ニコンのカメラがこれまで持っていた「テレビっぽい」色合いから一転し、上質なシネマの色合いを手にしました 。ニコンは、これまで一部の限られたプロにしか手が届かなかった「REDの世界」を、一般のクリエイターに開放するという、革新的な戦略に打って出たのです 。
3.3. 録音機能の革新:32bit float録音の絶大なメリット
ニコン ZRは、映像だけでなく音声収録にも一切妥協がないことを示しています 。同機は、世界で初めてカメラ単体で「32bit float録音」に対応しました 。
この32bit float録音は、映像におけるRAW記録に似た概念を音声に持ち込んだものと見なせます 。従来の24bitなどの音声記録では、一度収録時にレベルが入力限界を超えてしまうと、音割れ(クリッピング)が発生し、後から修復することは不可能でした。しかし、32bit float記録では、たとえ突然の大きな音で入力レベルが大きく振れても、後からソフトウェアでレベルを再調整することで、音割れのないクリアな音質を完璧に取り戻すことが可能です 。この機能は、特にワンオペレーションでの撮影や、突発的な音が発生するドキュメンタリー撮影などにおいて、音声収録の失敗リスクを劇的に低減させ、撮影者が映像に集中できるという絶大なメリットをもたらします 。この画期的な機能は、本体内蔵マイク、3.5mmマイクジャック、そして専用のデジタルアクセサリーに対応しており、ニコンが音声ワークフローの課題に深く向き合ったことの証と言えるでしょう 。
3.4. 記録方式と周辺機器及びソフトウェア:ポテンシャルと現状の課題
ZRは、R3D NE以外にも、ニコン独自のN-RAW、ProRes RAW、ProRes 422HQなど、プロ向けの豊富なコーデックに対応しています 。
周辺機器に関しては、Zマウントのレンズ群を活用できるだけでなく、マウントアダプター「FTZ II」を介してFマウントレンズも使用可能です 。また、ニコン初の「デジタルアクセサリーシュー」は、専用のショットガンマイク「ME-D10」や、今後対応が期待されるXLRアダプターなどをケーブルレスで接続し、電力供給とデータ通信を可能にします 。
一方で、現時点での課題も存在します。R3D NEは、現時点ではRED純正の「REDCINE-X PRO」でしか扱うことができません 。しかし、ニコンは現在、Adobe Premiere ProやBlackmagic DesignのDaVinci Resolveといった主要なノンリニア編集ソフトウェアへの対応を調整中であり、将来的なワークフローの改善が期待されます 。